CUT OFF2021
Last updated / 2021.02
爪や髪を切ると、切った瞬間それは自分から離れて不必要なものとなり、ゴミとなり、汚い物に変わる。
                子供の頃からそれがとても不思議だった。美容室の高い散髪椅子から、切られて落ちた髪がセミの抜け殻のようだ、とじっと見つめていたのを覚えている。
                
                2020年、私たちの生活は一変し、世界は急に狭く窮屈なものになった。その狭さは少しずつ心にのしかかり、平気なフリをしながらも目に見えない何かに囚われていった。
                
                その頃から鏡に写る自分が誰か知らない人のような気がした。そんなはずはない、と向こうの世界の私に少し微笑んでみる。
                手につく抜けた髪は、誰か知らない人の髪の様な気がした。そんなはずはない、と抜けた髪を握りしめる。
                
                無意識に自分に制限をかける日々の中で思い出したのは、ぶつける対象のない気持ちが渦の様になりのしかかってくる時、歪んでしまった世界の中でもがいている時、どんな時でも最終的には自分の心持ち一つで見える世界は変わると信じてきたという事だった。そして、それを身をもって体感するべく、私はいつの間にか重たくなった心を脱ぎ捨て、前を向く為に身代わりに髪を切った。
                
                子供の頃見ていたセミの抜け殻の様な髪の束の上に裸足で立ってみると、思いの外柔らかかった。
                ほんの一瞬前までは私の一部だったもの。でももうそれは必要のないもの。
                
                その境目はほんのわずかだ。
                
                CUT OFF
                人は、断ち切り、取り入れ、断ち切る、を繰り返し進んでいく。
                生きていく為に。























